TUNA SCOPE

REPORT

TUNA SCOPEを大連に導入。
日本の熟練の職人と判定結果を比べてみた。

ISSUED : 2019.11.16

中国・大連。世界有数の国際貿易港を持つことで知られるこの街は、水産品の一大加工拠点として、中国でも大きな役割を果たしています。今回我々は、総合商社・双日株式会社のグループ会社である大連翔祥食品有限公司の加工工場に「TUNA SCOPE」のAI目利きを導入するにあたって、長年かけて日本で目利きの経験を積んできた熟練の職人である三崎恵水産・石井さんと共に、大連での品質判定を実施しました。目利きAIと腕利きのベテラン職人、果たしてその目利きの一致率はどれ程のものであるか。改めて、精度の検証を行うとともに、「TUNA SCOPE」が持っている、マグロビジネスのデジタル・トランスフォーメーションの可能性について、一緒に考えました。

目利きを始めて20年近く経った今も、まだまだ修行中

20年近くにわたって三崎恵水産でマグロの買い付けを担当し、日々マグロを見定めてきた、目利き職人の石井さん。自身も「私もまだまだ勉強中です。」と話すように、尾の断面からの品質判定は、なかなか一筋縄ではいかないそうです。
マグロの品質には、漁獲されてから血抜きなどの船上処理を施され、急速冷凍がなされるまでのスピードが大きく影響してくるといわれています。「尻尾というのは、マグロの胴体に比べて、最も早く凍っていく部分。つまり、可食部のお腹の方にいくほど、凍結が緩慢になっていたり、ダメージが広がっていたりすることがある。それを、尾の断面のごくわずかな部分に現れてくる差から見極めるのは本当に難しいことです。」長年の経験を頼りに、「こういう断面のマグロは、中がダメなんだ」「この部分がしっかりしていれば、中も平気だろう」というように、徐々に独自の判断基準を身につけていくのだと、石井さんは言います。
長い年月をかけて習得した「職人の勘」であるだけに、自分自身の目利きには、自信があります。
「はじめは、なんとかしてAIに一泡吹かせてやろうという気持ちでいました。」果たして、AIの出した判定結果との違いはいかに……。マイナス60度の超低温冷凍庫から次々に運び出されてくる圧倒的な量のマグロを前に、我々TUNA SCOPEの開発チームの間にも、緊張が走ります。

最高ランクに判定されたマグロの約90%が、職人とAIで一致

市場で研鑽を重ねた「職人の目利き」と、ディープラーニングによって生まれた「AIの目利き」。両者が横に並び、総量5,000kgにまで及ぶ、冷凍キハダマグロの品質判定に臨みます。
その結果を比較するとーー。最高ランクに判定したマグロは、なんと職人とAIで約90%が一致するという結果に。

数時間におよんだ品質判定を終え、石井さんにTUNA SCOPEとの共同検品の感想を伺ってみると、「正直、本当に感服しました。」と、目利きのプロから太鼓判を押される結果に。
長い経験を積んできた職人でさえ、目利きの基準にはブレがある、と石井さんは言います。
「断面の目利きは、集中力が必要な長丁場の仕事。その日の体調や、明るさなどの周辺環境の影響で、ばらつきが生まれることもあります。そういう意味では、AIがこれからもっと発展していけば、私の選別よりももっと早く、安定して目利きができるようになっていくのかなと思いました。」

いずれAIが、人間の目利き職人を育てる未来も

AIとともに検品を行ってみて、石井さんに見えてきたこと。それは、人間からAIに教えていくのとは逆に、AIが人間の目利き職人の教師となり、その職能を磨き上げてくれる未来だといいます。「人間の目では見落とすようなところを、AIがちゃんと拾い上げてくれると『あ、こういうところは見逃さないんだ』と、逆に勉強になります。」
「目利きの担い手はどんどん減ってきていて、私もどうしても若い人を育てていくという目線で、こうした仕事をやっています。TUNA SCOPEがアプリとしてもっと普及していった未来に市場に通っている仲買人さんなどがスマホ一つ片手に、マグロを買付けに来る姿が思い浮かびました。そういう時代も、アリなのかなと。(笑)
長い年月をかけて、現場で目利きの仕事に取り組んできたからこそ、後継者不足という問題を、誰よりも痛切に感じてきた石井さん。「TUNA SCOPE」による目利きが今後、そうした職人の不安を取り除いてくれる未来も、そう遠くはないのかもしれません。

TEXT BY Ryo Sasaki

PHOTOGRAPHS BY Takafumi Shindo / Ryo Sasaki

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