TUNA SCOPE

REPORT

大間の一本釣り漁師にTUNA SCOPEを試してもらってみた

ISSUED : 2019.11.10

日本を代表する高級マグロの水揚げ港として名高い本州最北端の港町、青森県大間町。この町では、津軽海峡の沿岸部を中心とした漁場での本マグロの一本釣り漁法が栄え、地元の漁師間で代々その伝統技術が受け継がれてきました。「TUNA SCOPE」開発メンバーは、現地仲買業社「魚忠」代表の新田さん、漁師を営む南さんへの密着インタビュー取材を通じ、彼らが誇りとする一本釣り漁法と日本の水産業についてのこれからについて伺うと共に、「TUNA SCOPE」を実際に試してもらい、目利きAI技術によって変わっていく水産業の未来について、一緒に考えてみました。

「大間の漁師は全員、廃業の危機にある」

「来年もこの調子では、大間の一本釣り漁師は全員廃業するしかない。」 親子代々、大間で一本釣り漁を営んできた南さん。その口からこぼれた第一声は、近年稀にみるマグロ漁の深刻な不漁を語る言葉でした。「こんなに獲れないのは、今から30年以上前、青函トンネルが建設された年以来かもしれない。」
温暖化による水温上昇によって、マグロの餌となるイカが激減してしまったことが原因の一つだと言われていますが、それだけではない、と漁師の方々は続けます。 考えられるもう一つの原因は、漁獲のシーズンを考慮せず、産卵期のマグロや稚魚までを総獲りしてしまう漁のやり方が、日本近海でいまだに横行していること。「大間の一本釣り漁師が年間で獲る量のマグロを大型船は、たった1日で獲ってしまう。」
量のみを追求したやり方で漁獲されたマグロは、網の中で長い時間暴れ回り、体温の急上昇で身にヤケが生じたり、互いに傷つけ合ってダメージを負ったりした状態で揚がるため、その品質は決して良くないそうです。その一方で、大間の伝統的な漁法である「一本釣り」は、テグス一本でマグロを一匹ずつ釣り上げ、船上で締めていくやり方。「マグロ一匹一匹を丁寧に扱うから、その質もずっと良く保たれる。品質を保つためには、締め方が非常に重要です。」
「それでも最近は、マグロが市場に出回る量が減ってきたばかりに、どんな質のマグロでもそこそこの値がついてしまう。」これまで仲買人として、日々、大間のマグロを見定めてきた新田さんが続けます。乱獲が供給量の低下を招き、その結果、品質の良し悪しではなく、多く量を獲った者勝ちの構図が続いてしまう。その悪循環が、大間の漁師の立場をより危うくしてしまっていることが課題だと、彼らは話します。

「量」よりも「質」でマグロが評価される未来へ

その日の夕方、実に1週間ぶりに、大間の港に本マグロが揚がったというニュースが届き、早速港へ向かった開発チーム。「TUNA SCOPE」で、試しに尾の断面から品質を判定してみます。これまで「TUNA SCOPE」は、キハダマグロの尾のデータで学習を続けてきたため、本マグロの尾での判定は未知の領域。あくまで試験的なトライではありますが、その判定結果は最高ランクの「A」。様子を見守っていた新田さんの顔が、自然とほころびます。

「人間の目利きは、どうしても需給量のバランスをみて値を動かしてしまうといった思惑が絡むことがある。でもAIは、そういった事情に流されないから、中立公正なジャッジができる。」売り手の都合と買い手の都合、どちらに対しても贔屓がないAIの品質判定は、取引の際の新しい判断基準になる可能性を持っています。
翌日の夜、取材中の南さんの携帯に、息子さんから「迷った末、漁師を継ぎたい」という電話が。
「本音では嬉しいが、いまの大間の漁業の状況を思うと、素直には喜べない。」そう語った南さん。「美味しいマグロを獲れば、その分だけちゃんと評価されるようになっていけば、市場を取り巻く状況も少しずつ変わっていくかもしれない。」TUNA SCOPEによる目利きの体験を終えた後、南さんと新田さんは、私たちにそう話してくれました。

マグロの取引の基準を、量から質へ。
まだ世界では、しっかりとした目利きを通さずに、総量で取引され、市場に流通することも少なくありません。「TUNA SCOPE」が普及することで、あらゆるマグロの品質がしっかりと目利きされるようになり、丁寧に獲ったほうが市場でも高く値付けされるようになるかもしれません。我々のAIは、将来、ビジネスの力学を変え、貴重な資源を地球規模で守ることにつながっていくかもしれない。そんな可能性を、大間の漁師の方々の声から、確かに感じることのできた滞在となりました。

TEXT BY Ryo Sasaki

PHOTOGRAPHS BY Takafumi Shindo / Ryo Sasaki

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